
佐藤 章子(さとう あきこ):
ハウステージ有限会社代表。
CFPと一級建築士の資格を生かして住まいと暮らしのコンサルタントとして活躍中。
知り合いのコンサルタントから聞いた話を紹介しましょう。小学生の子供を夏休みに合宿式の金銭教育セミナーに行かせた時の話です。正確には覚えていませんが、大筋は間違っていません。
………八ヶ岳のような別荘地が近くにある牧場のようなところで行われました。
プログラムはチームに分かれ1、まず子供達だけで、何を売るかを決めます。当然何が売れるか、買ってくれそうな商品は何かを一生懸命考えなければなりません。2、次に事業計画をたてます。誰が何をして、予算はいくら、売値はいくら、何処に売りに行くかなど全て子供達だけで考えます。指導員によるアドバイスも参考にします。実際に販売を想定していますので、いい加減だとうまくいかなくて、他のチームに負けてしまいます。3、次に商品を製作します。木の枝を利用した額や写真たてなど自分達で考えた売れる商品を自分達で作ります。いくらか資材の購入も必要かもしれません。4、最後に実際に近くの別荘地などへ売りに行きます。売値はわずかですし、義理で買ってくれるかもしれません。5、最終的にチームの全売上げを集計し、全員のかかった時間で割って時間単価を算出します。………
子供は、1つの商品を売るのに(そして収入を得るのに)多くの工程と労力が必要なことを知ります。子供が合宿から戻って、父親に最初に聞いたことは、「お父さんは1時間いくら稼ぐの?」でした。子供は自分が1時間いくら稼げたかを知っています。会社を経営している父親はその何百倍何千倍稼ぐでしょう。父親は日々の食費などの金額を例にして、家計を維持する為に必要な金額を説明します。時間単価にすると子供には途方もない金額のはずです。それを知った子供は一言…「やっぱり大人はすごい!」…だったそうです。
●子供の金銭教育は必要か
現在の子供の多くは、親が一生懸命働いている姿を間近に見ることはできません。「親の背中を見て子は育つ」の通り、農業や家内工業に従事する親を持つ子供達は、親の仕事を通じて自然と社会の仕組みを感じ取りますが、残念ながらサラリーマンの子供はその機会を得ることができません。しかし、上記の例のようにほんの少しでも直接社会にかかわれば、多くのことを知ることができます。値段のつけ方を間違えれば、もっと高く売れた差額を損します。高く設定しすぎたら、売れずに労力だけ無駄になります。売れすぎて追加製作となったら、分担の必要が発生します。手先の器用な子供、売るのが得意な子供、子供でも個性が大きく違います。そのうち、能力と労働の量と分配の問題にも行き着きます。販売の過程で顧客のニーズを知り、改良の余地があることが分かったりします。
家庭と働く場の乖離の時代こそ金銭教育が重要です。それは単に「少ない労力でより多く儲ける」ことを教えることではありません。戦後どの国でも「青年期」つまり、大人ではあるが社会的責任を多く持たないモラトリアム期の長期化による社会問題が顕著になっています。「パラサイトシングル」「フリーター」など青年期の長期化とその問題点が大きくなっている昨今、私はむしろ、できるだけ早く社会にかかわるべきだと考えています。特に大学進学率が50%になろうとしていますが、学費を全額親が負担する国はあまり多くありません。現在の若い世代の老後の年金問題や高度経済成長の望めない状況下、子供は大学の学費は自分が稼いだお金で賄うことが当たり前と考えるように、またそのための力も付けていけるような教育が必要だと思います。グローバル化に負けない力のある若者を育てる為に、親に頼る長い教育期間よりも、自力で学ぶ力を育てる方が効果的なように思います。
●教えるポイントは
実は子供の金銭教育は、戦後まもなくからありました。親が子供に小遣い帳をつけさせるのも金銭教育ですし、昔一時期子供銀行なるものもありました。今考えれば不思議な仕組みですが、金融機関の職員が学校を訪問し、子供の通帳を作り、預け入れや引き出しをする仕組みでした。クラス単位で取りまとめる父兄もいて、その父兄を通じて金融機関へ預ける場合もあったように記憶しています。
当時は国民全体が貧しく、節約と貯蓄が主軸の金銭教育でした。これからの時代は、親から学び取れない社会の成り立ちと自分自身のライフスタイルを考える力を強化することにポイントを置くべきであると考えています。よく取りざたされる投資教育などは、社会の仕組みへの理解や自分自身の人生設計の組み立てや目標設定無しでは全く無意味です。それこそ、今紙面をにぎわしている金銭至上主義の問題を拡大するだけでしょう。
カードローンや悪徳商法などから身を守る方法は、本来の金銭教育とは別に、交通事故や誘拐などから身を守ることと同レベルの問題として教えていくべき問題だと思います。
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