
佐藤 章子(さとう あきこ):
ハウステージ有限会社代表。
CFPと一級建築士の資格を生かして住まいと暮らしのコンサルタントとして活躍中。
住まいのあり方は、そこに暮らす大人の考えや生活スタイルに大きく影響しています。職人の住まい、商家の住まいがあるようにサラリーマンの住まいもあるはずです。特に21世紀はサラリーマンのあり方自体が大きく変化していくと想定される時代です。今回のシリーズは、今後の社会における子供の教育の上で、住まいのあり方としてどのような点が特出されるのか、親の問題も含めて考えてみましょう。
●子供部屋に鍵は必要か
2年ほど前に、このコラムで『子供を健全に育てる住まい』について書いたことがあります。その中で、重大な犯罪を起した子供達の部屋の特徴についての研究を紹介しました。少し抜粋して再掲してみましょう。
重大な犯罪を起した子供達の部屋の特徴とは・・・
・玄関から親の顔を見ずに子供部屋に出入りができる
・子供部屋から直接外に出入りができる(離れ等も含む)
・子供部屋が親の寝室から離れている
・リビングルームが子供部屋から離れて、かつ団欒の場として機能していない
・窓が遮光カーテンや荷物等でふさがれている=外界と遮断
・夫婦の寝室が貧弱、コミュニケーションの場として機能していない
新潮社「危ない間取り」横山彰人著 より
親とのコミュニケーションが不十分で、外界から隔離していることが問題視されていることが分かります。鍵はまさにこの問題点と一致します。しかし、子供は成長に伴い独立した領域を欲しがります。親とのコミュニケーションと子供の独立性のバランスをどうとるか、親のスタンスが重要となります。
●親子が一緒に勉強できる住まいとは
上記の問題点を再度分析してみると、親とのコミュニケーションのほかに、親の「親」としての確立も重要であることがわかります。家内工業や農漁業であれば、子供はおのずと親の大変さを実感して育ちます。現代の子供の多くは親が働く姿を見て育つことができません。最良の教育機会が失われているのです。
同時に、上記2年前のコラムで、「…これからは大人も勉強しなければ脱落していく時代です。共稼ぎ世帯も過半数を超え、子育て中の専業主婦も再就職のためにはスキルの維持や向上に努力しなければなりません。…」と書いたように、親の勉強部屋も子供部屋に劣らず必要なのです。
親の勉強スペースの確保と親が大人として努力している姿を子供が学び取る機会が得られるような工夫は、子供の健全な発達面からも、これから住まいのあり方として大切なポイントでしょう。
現在の日本の家庭のリビングはテレビがその中心になってしまっていることが多いでしょう。そもそもリビングとはどのような性質の空間なのでしょうか。「団欒」と一言で片付けられるほど、社会や家庭環境は単純ではありません。育ち盛りの子供達を持つ共稼ぎの主婦は、リビングのソファに座っていられる時間など無いでしょう。私はリビングとは「家族の気配を感じながら、時に会話しながら、自分の時間を過ごす場所」と定義しています。それであれば、リビングをみんな勉強の場としても考えても良いのではないかと思います。リビングに導入する機能や空間として…
◇図書コーナー…辞書・図鑑・百科事典・小説などリビングの一角に図書をまとめてはいかがでしょう。自然と勉強するスペースの演出ができます。子供の活字離れも解消しそうな気がします。
◇家族の勉強コーナー…奥行はさほど必要ありません。チェストに板を渡すだけの可動式のものでもかまいません。但しできれば、家族が並んでそれぞれの勉強ができる長さが欲しいものです。
◇ダイニングテーブル…ダイニングテーブルを大きなものにして多目的に使う方法もあります。家族同士が一定の距離を置けるジャンボテーブルにして、その分リビングセットの一部を省略しても良いでしょう。
上記の空間を併用して、家族が思い思いの場所で勉強できるコーナーをたくさん用意する方法もあります。このように考えていくと、今までのダイニングテーブルや応接4点セットなどの呪縛から一旦開放して、これからのリビングに必要な装置を改めて考える必要がありそうです。
子供による凶悪犯罪は一向に減る様子がありません。この原稿のプロットを作った日の夕刊にも両親殺害の容疑で15歳の少年が逮捕された記事が1面トップで掲載されました。健全に子供を育てる住まいの研究は建築学や住居学のテーマであり、古くからいろいろ研究されています。しかし、最も大切な点は、家族のあり方です。バブルがはじけ、ライフスタイルが多様化する中で、これからの時代に見合った子供を健全に育てる住まいのあり方を、親自身の生き方の問題として考えてみる必要がありそうです。
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