
佐藤 章子(さとう あきこ):
ハウステージ有限会社代表。
CFPと一級建築士の資格を生かして住まいと暮らしのコンサルタントとして活躍中。
Q:前回のインテリアの領域に関連して、それでは日本の伝統的なインテリアとはどのようなものだったのですか。これからの住まいに生かせる良さはあるのでしょうか。
A:日本の生活様式や住まいの構造は、あまり家具を必要としなかったのと、使わない時は片付けられて、部屋を多機能に利用していました。ソファーに対しては畳や座布団が対応し、座布団は不要なときは押入等に仕舞われました。ダイニングテーブルも銘々膳や折りたたみの卓袱台で、やはり使わない時は片付けられていました。季節のものも同様です。カーテンも障子のように建築化していました。畳の部屋は次第に少なくなりましたが、引き戸の良さは見直され、マンションの居室にも多く使われ始めています。
インテリアに対する考えの違いは、その国の風土や環境などによるところが大きいと思います。したがって、伝統的なスタイルはその国にとって何かしらの必然があるはずで、当然そのよさは今に生かせるはずです。住まいはその地域の気候や環境に即して作られてきましたが、都市への一極集中化、家電商品の発達や所得の向上などで、より快適な生活を求めるようになり、特に都市部では防犯・防災の観点からも伝統的な住まいのスタイルは難しくなっていきました。
●基本的な住まいの成り立ち―欧米と日本
ヨーロッパの基本的な住まいは石造りです。石で壁を作って床を張り屋根を掛けます。つまり最初に壁ありきで、窓はその壁をくりぬくという発想です。地震のない、乾燥した環境がそれを可能にしています。一方、日本は地震国で、夏は高温多湿、森林に囲まれてきた国です。建物は木を組み合わせて作られてきました。最初に柱ありきで、窓は間戸、つまり柱と柱の間(あいだ)の間(ま)に戸があることを表しています。「間取り」、「間が悪い」、「間に合う」、尺度の「1間」などの言葉からみても、「間」というのは、日本人にとって特別な意味があるようです。当然夏の暑さを防ぐ為に開口部は大きく開けて風を通します。石造りの場合、窓を大きく開ければ壁の耐力が低減しますから、窓の大きさは最小限とし、小さな窓をいくつも開ける形になります。当然室内は広い壁と小さな窓が並ぶことになります。広い壁には、絵画や壁掛けなどのアクセサリーを、窓にはしゃれたカーテンを、となるのは自然でしょう。反対に大きな開口部は、開閉する扉そのものに意匠を凝らすのも当然の成り行きだと思います。カーテンは小さな単体の窓にあってこそ美しいのであって、大きな開口部一面のカーテンは、幾分締りがない感じがします。やわらかい陽射しが差し込む障子など建具で工夫することも、もっと取り入れられても良いと感じています。
●日本の風土と高気密高断熱性能
所得が向上し、快適な生活を求めるようになり、冷暖房の効いた快適な暮らしを手に入れました。その効果を高め省エネの為に、また建物を長持ちさせる為にも、高気密工断熱の住まいが必要となりました。最終的にそれらは地球環境の保全につながります。それらは一見今までの日本の住まいと異なる方向にあるように見えます。また現実問題、太い柱を使用し、釘を使わず組んでいく方法は、木材の高騰などで経済的に成り立ちにくい状況にあります。日本の住まいのスタイルは、柱を隠す大壁スタイルになり、間戸ではなく、壁をくりぬく窓のニュアンスに変化していったと思います。ただし戸建では、やはり大きな開口部を求めます。物があふれ、かつ片付けない生活スタイルでは、ますますスペースが手狭になります。大きな掃き出し窓は、その周りは出入りなどの空間が必要なのに対して、腰高窓であればソファーなどの家具を壁に寄せることができます。
●多目的性
もともと基本的に柱と柱の間は全て開口部という日本の住まいは、引戸の襖を取り去れば二間続けて使えます。また、高温多湿な夏の時期は、窓や間仕切りを大きく開け放し風を取り込み、陽射しを避ける簾やよしずなど、様々な伝統的な夏の設えがありました。仏間・茶の間・座敷・客間・寝間など、各室の役割はありましたが、座布団を置けばそこが居間、布団を敷けば寝室、卓袱台を出せばダイニングにもなります。ダイニングテーブルやソファーは常にその場にあり、その場の役割が固定化し、スペースもかなり要します。ここで注目したいのは、日本の伝統的室内には、「ものがあふれていない」事と、「しまう」という所作です。
高気密高断熱の住まいとは、年中締め切って暮す住まいではありません。夏の最盛期以外は、窓を大きく開けてさわやかな風を通したり、昔ながら暖簾や植栽を工夫したりして涼やかに暮すことはできます。高断熱の住まいは開け放していても、通常の住まいと比べてかなり涼しく過ごせるものなのです。だから日本の風土と高気密工断熱の住宅は矛盾しません。問題は、狭いスペースに大きな窓、あふれる家具類ではないかと思います。
まずはモノにあふれない生活を、心がけてみてはと思います。モノがあふれると快適性を大いに損なうばかりでなく、掃除が行き届かず不衛生です。また、それほど重要でないものに多くの費用を費やすのは、資源の浪費でもあります。スペースを取り、その分の建築費もかかっていることになります。長く使い続けられるものを吟味し、代々使い続けていくという、美しくしまう伝統に学びたいものです。モノにあふれた現代だからこそ「しまう」という文化を見直してみると良いのではと思います。
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