
佐藤 章子(さとう あきこ):
ハウステージ有限会社代表。
CFPと一級建築士の資格を生かして住まいと暮らしのコンサルタントとして活躍中。
Q:住まいを取得した時は、自分でインテリアを考えたいと思います。インテリアに関する資格も取りたいと考えていますが、どのような心構えで勉強したらよいでしょうか。
A:私が、建築を勉強しているとき、先生からは一様に「建築をやるなら、建築以外のことを勉強せよ」といわれました。驚いたことに、勤めてからも休み時間に建築の本を見ていると、「そんなことは仕事の中でいくらでも覚える。建築以外の本を読め」といわれました。インテリアも同じだと思います。「人間を知る」、これが大切です。
インテリアというと、家具やカーテン、照明器具などのデザインやコーディネートをイメージしがちですが、インテリアデザイナーやコーディネーターは建築の構造部分には関与せず、室内に関しては、建築家との守備範囲の境界がさほどありません。4回にわたって「インテリアの基本」を考えていきます。ここでは、実際にあった事柄を事例にして、イメージをつかんで頂きたいと思います。
●空間把握
【事例】住宅メーカーが首都圏に4棟の新商品の展示場を建設するに当たって、4人のインテリアコーディネーターにそれぞれ1棟ずつ割り当てて競わせました。全員に試作棟を見てもらって、各自提案を作らせました。新商品は勾配天井を生かした設計で、2階の天井が高いのが特徴ですが、反対に勾配部分の低いところは1m50㎝程度しかありません。しかし、4人がそれぞれ提出したプレゼンテーションは、残念ながら全員、勾配天井の最も低い部分も「人が立てる」設計となっていました。これではいけません。建物の実物を実際に見ているにもかかわらず、空間把握ができていないからです。最も低い部分は、ロー家具やデスクなどを配置したり、床に直にくつろぐようなクッションや家具を配置して、低い空間を楽しむ提案にするなど、人が立てないようにする必要があります。方法はいろいろありますが、通常の高さの家具は置けず、普通の高さの椅子やソファも置けないのです。
インテリアは、そこにある空気全体をデザインするイメージです。手元に置いたパーツが高いところに取り付けられたら、人間の目でどう見えるかを想像する能力が必要です。まず空間把握から始まります。素敵な店に行ったら、色や形、また家具や照明器具などのパーツに目を向けず、空間を意識するようにしてください。訓練になります。
●人間工学
【事例1】オリジナルキッチンの設計のときです。人間工学や吊戸棚に関する基礎知識がなかったのでしょう、使いやすいと思い、吊戸棚を低い位置で設計していました。しかし、吊戸棚の奥行きはキッチンの奥行の差と高さの差が、一定の法則で定められています。勝手に低くすると頭が当たり危険なのです。このように全ての機器は、安全に快適に使えるように、人間工学的に考えつくされているのです。時代と共に変化し、使い手によっても異なってきます。昔はキッチンカウンターの高さは床から80㎝が一般的でしたが、現代は使い手の体格も変わり、90cmのケースもあります。洗面台は低すぎると腰を痛め、高すぎると肘に水がたれて不快です。全て毎日のことなので、正しいサイズや位置でないと安全で快適な生活は望めません。
【事例2】住宅展示場の2階にあるリビングのインテリア設計についてです。提出されたプレゼンテーションは窓のところに素敵な椅子を配置してありました。しかし、展示場は子供も多く来場します。大人は見学に一生懸命で子供は野放しであることも珍しくなく、小さな子供は何をするか分かりません。椅子にのぼった場合など、窓から転落する危険性は当たり前に考えておかなくてはなりません。窓やバルコニー・吹抜けの手摺に接した部分に、台のようなものを置くのは危険です。マンションの例ですが、住み手が窓際にベッドをおいて転落した事故が報道されたことがあります。このときは設計者側の責任も問われています。
インテリアの仕事は身近なものであり、誰にでもできそうに思われるかもしれませんが、全ての部分に細部にわたってまで、人間工学的にきちんと考えつくされていないと、事故やケガの元になり、精神衛生上の問題など、その影響は広範囲にわたります。特に子供や高齢者にとって、生命の危険も招きかねない事態もありえます。次回以降になりますが、色彩や照明の選択もやはり人間工学的な配慮が必要なのです。これは経験も大切です。学校での勉強だけでなく、経験豊かな人材が多くいる場で研究を積むことが大切です。
●空間演出
【事例】洋服を買うときの高級ブティックをイメージしてみてください。商品の数は少なく、デパートのように多くの品揃えから洋服を選ぶことはできません。商品を多く展示するよりも、余白を作って商品を表現しています。主役は空間をまとった洋服であり、雰囲気作りのためにデザイン、配置されたインテリアや家具ではありません。最初に何もない空間に洋服があり、それを引き立てる最小限の家具などをアレンジする…住まいも同じで、人間とその生活が主役なのです。家具の配置をコーディネートするというより、余白をデザインするといった方がより近いかもしれません。高級店の設えは、顧客がその洋服を着たときのシーンやドラマをイメージさせるようにできています。必要最小限、無駄なものを排除していくと、より鮮明に浮かび上がります。空間演出は、モノを付加していくのではなく、削ぎ落とすつもりで考えると成功する場合が多いと思います。
これらのインテリアの基本は、専門家になるための素養だけでなく、家具を購入したり、安全に快適に住まいを整えたりする際にも役立つ知識です。
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