MODERN Club/不動産よくある質問Q&A

『日本の伝統スタイルと現代-1』 茶室に見る精神性[question]

昔も今も、茶室がある住まいはあまり見かけませんね。茶の湯に親しんだことのある方は多いかもしれませんが、茶室自体はあまり身近なものではないようです。
今年から始まったそれぞれのシリーズは、日本の伝統の中から現代に生かすことのできるエッセンスを何かしら抽出しようと試みるものです。したがって、ここでは茶室そのものを取り上げるのではなく、茶室で茶の湯を楽しむことの神髄を、現代にどのように生かしていくかを探っていきたいと思います。神髄といっても、茶道そのものと直接結びつけるのではなく、あくまでも生活の側面から見て捉えたいと思います。

●お茶を飲む
わざわざ茶室というものが考案されたのは、茶室での茶事が、より深く心に響くものだったからだと思います。そもそも茶道というものが作られたこと自体、お茶を楽しむひと時を味わうためのものだったのでしょう。日本の茶道ほどではなくても、お茶を入れる作法は世界各国それぞれにあります。特別なひとときであることを示すために、「コーヒーブレイク」という言葉があるくらいです。また、茶道には詳しくなくても、和洋中の茶器を吟味し、お気に入りの緑茶・紅茶・ハーブ茶・コーヒーなどを飲むひとときを大切にしている方は多いと思います。吟味された空間や道具を利用して、ほんの少し非日常を楽しむ・・・別荘生活や旅行といった、まとまった「非日常」だけでなく、日々の生活の中のちょっとした「非日常」は、生活に精神的な豊かさを与えてくれます。

「非日常」を作りだす空間は、住まいづくりを考える上でもっと配慮されるべきではないでしょうか。特に、お茶それ自体が持つリフレッシュ効果を利用して、ちょっとした「お茶のひととき」を持つことは非常に大切です。そのための空間づくりに、伝統の茶室からヒントが得てみましょう。


●茶道の仕掛けと現代への応用
茶室のつくりには、いろいろな仕掛けがあります。茶室の構造の中から幾つかを取り上げて、現代に「非日常」を生かすヒントを探ってみます。

路地…日常生活から断絶された清浄な心構えを作り出すための空間です。現代でも、劇場などで人々のざわめきが次第に消えていき、照明が暗くなるにつれて「いよいよ始まる」という心構えとなります。仮に、リビングから、廊下を通って趣味の部屋に行くとします。何もなければその廊下は単なる通路です。しかし、廊下に趣味の作品やその写真などがディスプレーされていれば、その廊下は非日常への架け橋の場となりえます。仕事帰りにわが町に降り立つと、シンボルツリーが見え、門灯が見え、玄関までのアプローチ、玄関ホールの設えを通じて、リビングでの団欒生活へと誘導されていく…など、路地の設えの考え方は、いろいろ現代にも応用できそうです。

にじり口…一般的には、腰をかがめて入ることにより、謙虚な気持ちで臨むためなどと言われていますが、低い目線からの風景・場面の変化の演出の要素も大きいと思います。坂道がワクワクするのは、のぼりきったらどんな風景が展開するかが楽しみなのです。たとえば「トンネルを過ぎたら、そこは雪国であった」は、風景の劇的変化に対する驚きなのであると同様に、わずか4.5畳の空間に別次元の感情を作り出す仕掛けでもあるといえます。のれんもある意味では、目隠しだけでない、このような仕掛けの一種かもしれません。

床の間(花と掛け軸)…花や掛け軸は、非日常の中の非日常ともいえます。何もないテーブルと野の花を一輪置いたテーブルでは、随分と趣が違うと思います。空間に「正面性」や「確固たる場」を作り出す花は、住まいづくりの際にいろいろと用意しておいてもよさそうです。

造作…茶室は狭い空間ですが、掛込天井や落天井など、立体的な天井のものがあります。窓の配置にも空間に広がりを持たせる工夫がなされています。住まいでも天井の変化は、空間の雰囲気を大きく変え、天井を一段低くしたスペースは、高い天井の空間とはまた違った気分を味わえます。窓も大きな窓だけにとらわれず、小窓をアレンジすることにより、空間の変化を作り出しても、いろいろな場ができて楽しめます。

●茶室と茶道具と精神性
空間や道具は、人や手になじむサイズというものがあります。欧米の椅子は日本人には大きすぎて、居心地の良いものばかりではありません。気がつかないですが、公共の場の様々なもののモジュールも、男女で感じ方が違っているのではと思います。階段の段差のサイズ、座席の高さ、劇場などの客席の勾配など、女性にとって何となく居心地悪い感覚が常にあります。また、昔と今では体格が違います。利休は大柄だったという説があるようですが、昔の男子の平均身長は、現代の女性のそれと同じ程度でした。とすると、昔の人の居心地の良い空間サイズと道具のサイズは、現代人と違っているはずだと思います。もし、昔の茶室が当時の男性に最適な空間であったとしたら、現代の茶室はもう少し広い方が、同じ感じ方ではないかと思います。茶道の道具のサイズは変わってきているのでしょうか。昔からの逸品を愛用されている方は、どのように感じていられるのでしょうか。利休作の茶杓は、写真で見ても美しいものです。伝統芸能の研究者であった元成城大学の西山松乃助教授は、「こういう(茶杓の)一つの空間、そしてこの中の節、・・・こういう間合いのとり方というものの絶妙さ・・・」と書いていますが、美しい芸術品を使った感触は、昔の人と現代人では違いがあるように感じます。

道具や空間のサイズはもっと注目されても良いと思っています。自分だけの茶器、自分だけの椅子で至福のときを過ごすのも良いものです。住まいづくりにおいても、一般的なリビングではなく、特別のひとときのために、手になじむ茶器や椅子、テーブル、心地良い空間づくりといった視点で考えても良いのではと思います。茶器も家具もセットのものでなく、家族それぞれに最適でありながら、全体としては家族全員居心地の良いものを選ぶのがおすすめです。難しいですが、狭くても計算されている茶室は、何かしら参考になると思います。


せっかく日本には優れた伝統があるのですから、茶の湯の奥義に精通していなくても旅行先の名所見学などで茶室に触れる機会があれば、そこに身を浸して、理屈でなく全身で日本伝統の精神性などを感じ取り、現在の生活に生かしてみたいものです。

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