
佐藤 章子(さとう あきこ):
ハウステージ有限会社代表。
CFPと一級建築士の資格を生かして住まいと暮らしのコンサルタントとして活躍中。
食文化は、住まいにも大きな影響を与えます。たとえば、韓国には通常の冷蔵庫のほかにキムチ専用の冷蔵庫があるそうです。仮に日本の住まいに専用の冷蔵庫を設置することを想定してみると、一戸建てやマンションを問わず、たった一つ冷蔵庫が増えただけでかなり間取りが変わりそうです。
他方、住まいの変化もまた、食文化に影響を与えます。戦後公団住宅が建設されることで、ダイニンググキッチンという概念が生まれ、調理器具も進歩し、家庭で調理可能な料理の範囲も広がりました。
●和洋中華にエスニック
日本ほど世界各国の料理を日常的に楽しめる国はないかもしれません。日本人に「その国の代表的料理は何か?」という質問をすれば、フランスやイタリアはもちろん、ドイツやロシア、タイやベトナム、中国、韓国などのアジア諸国、はるか地球の裏側のブラジルまで、すらすら答えることができてしまいそうです。レストランで諸外国の料理を楽しむだけでなく、家庭でも日常的に和洋中華の食事が作られます。こうしたことは、日本の食事が食器の種類と数ともに多く、形もさまざまであることを表しています。その多様性は、食器だけでなく調理器具や調味料についても同様です。主食だけに限っても、トースターや炊飯器、麺類をゆでる大鍋などがあります。このように、食器や調味器具の多さに伴って、それだけ収納スペースも必要になってきます。
収納やコンセントの数や位置などキッチン設備は年々豪華になってきています。しかし、多様な料理に対してトータルで使いやすくなっているかというと、それは疑問です。炊飯器(おひつに移すのでなければ)やトースターは食卓側にあると便利です。毎日使う茶碗やおわん、箸も同様です。ゴミの分別が進んでいますので、生ゴミなどの置き場所も不十分です。
●日本人の創意工夫と食文化
日本人の手にかかると、たとえそれがどの国の料理であれ、たちまち和食のメニューにアレンジされて取り入れられていきます。日本に関するエッセイを多く書かれているポール・ボネさんが、「あるとき、外国の友人を連れて高級料亭に行った時、フォアグラが前菜の一つに出てきて、友人と仰天した。日本人は、外国の料理でもおいしいと知れば、たちまち自国の料理として取り入れてしまう」…といったことをお書きになっていました。
最近では、激辛ブームで刺激の強いものばかりが話題のようですが、多彩な味覚を楽しむには、小さな子供時代からの味覚の訓練が大切です。素材そのもののおいしさの味覚を覚えずに、ファーストフードやファミリーレストランの味に慣れてしまうのは考えものです。
●これからの時代と食生活
これからも日本人の食生活は、多様化していくと思います。しかし、家庭での食文化となると、朝食抜きや、ファーストフードによる肥満や栄養バランスの乱れ、子どもの一人夕食といった問題も報告されています。今後の時代のキーワードをいくつか拾ってみると、「女性の社会進出」「少子高齢化」「低成長」「食の安全」「食糧自給率」があげられると思いますが、現状は改善されるどころか加速する状況にあります。
しかし、食の安全を考えれば、自宅で生の素材から作る料理に勝るものはありません。また、自炊を心がけるようにすれば、食糧自給率が問題になる中での食品大量処分といった矛盾もなくなります。今後は、今まで以上に無駄をなくし、調理の負担も低減し、しかも安全である仕組みが求められてくるでしょう。そこで、日頃考えていたものを参考にあげておきます。
折詰の食文化…
昔は、会食が終了すると残った料理を折詰にして持ち帰る習慣がありました。主婦や子供たちは、普段食べられない珍しい料理を食べることができました。昨今では、「もったいない」という言葉が再評価されたばかりですが、折詰して持ち帰れば無駄にすることもありません。多すぎたご飯やおかずを持ち帰れば、確実に夜食程度は賄える気がします。
家事負担や子育てのシェア…
普及はまだまだですが、夕食を共同で作るシステムのコレクティブハウス(シェアスペースを設け、食事・育児などを共にすることを可能にした集合住宅のこと)があります。食事当番のノルマさえ果たせば、残業で遅くなっても食事ができたり、コミュニティが身近にあるので、子供も親の帰りが遅くても顔見知りの大人と一緒に食事ができます。コレクティブハウスでなくても、大規模団地などでは住民運営の共同ダイニングがあるといいかもしれません。小さな子供がいる家庭や高齢者に需要が多いよう思われますし、当番のノルマを果たせない場合でも、その分のコストを拠出するといった工夫が可能です。空間や時間、モノを能率的にシェアすることで、より豊かな生活が実現できるのではないでしょうか。
これからの住まいやキッチンの設備は、「しっかり食べる」「味覚を育てる」「調理が楽」など、実際の食生活に合わせて栄養管理だけでなく、精神的な面にも注目していくことが求められているように思います。そのためには、地域のコミュニティへと枠を広げて考えることも重要だと思います。
このエントリーのトラックバックURL:
http://www.interblog.jp/bizmt/mt-tb.cgi/684