
佐藤 章子(さとう あきこ):
ハウステージ有限会社代表。
CFPと一級建築士の資格を生かして住まいと暮らしのコンサルタントとして活躍中。
今年は、日本の伝統文化の良さを再確認し、今の私たちの住まいや暮らしにも取り入れられるヒントをご紹介しています。これからも、しばらくこのシリーズを続けていきますが、ここで一度一息入れてみたいと思います。
今回ご紹介するのは、飛騨高山で私が感じた日本の伝統文化の良さについてです。
●吉島家住宅
飛騨高山の民家「吉島家住宅」(よしじまけじゅうたく)は、もとは造り酒屋で、明治40年に建てられたそうです。国の重要文化財に指定されていて、隣には同じく重要文化財に指定されている「日下部民藝館(くさかべみんげいかん)」があります。
私が最初に飛騨高山を訪れたのは、中学か高校生の頃で、将来建築の分野へ進むとは全く考えていない頃でした。そのため、建築を学ぶ者の視点でその住まいを見たわけでも、事前に詳しい情報を得て訪れたわけでもありません。家族旅行として、有名な観光スポットだから立ち寄ったにすぎません。その時、私は家族より一足早く、吉島家の中に入りました。入るとすぐに広い土間があり、そこでその空間の見事さに固まってしまいました。
高山市の観光課のホームページには、「大黒柱を中心に、梁(横にかける材)と束(梁に垂直の短い柱)によって構成される吹き抜けは、高窓からの光線をたくみに屋内に取り入れ、柱や鏡戸の木目を美しく見せています。日下部家が男性的な建物に対し、この吉島家は建物のすみずみまで神経のゆきとどいた、繊細さと女性的な美しさのある建物といわれています」とあります。すみずみまで神経の行き届いた佇まいが、見るものを圧倒し、しばし呆然と眺めていたのを思い出します。その後何度となく訪れ、数年前も内部のスケッチに訪れました。何度訪れても、新たな感動を味わうことができる建物です。
●吉島家住宅に見る住まいと暮らしの伝承
確かに、先人の匠が作り上げた柱や梁の架構(かこう)は、美しく、隙がなく、緊張感があふれていて、見事なまでの構成美を誇っています。しかし、吉島家をそこまで見事なものにしているのは、すみずみまで神経の行き届いた佇まいです。そこには、端正な架構だけでなく、住む人の心配りや代々住まいを磨き上げてきた営みの輝きがあり、住み手が建物を美しくしているのだと強く感じます。いつ訪れても、悠久の人々の営みがあるように感じられ、静かで穏やかな時間が流れています。
住まいは、やはり何代にもわたって住み続けるべきものだと思います。そこに引き継がれる家族の歴史は、子供の健全な成長にも大きな影響を与えるのではないでしょうか。
●200年住宅(長期優良住宅)
国土交通省は、耐久性や耐震性に優れ、何世代にもわたって住み続けられる「200年住宅(長期優良住宅)」の普及促進策を本格化させる方針で、2008年秋の施行を目指し、施行後3~4年で10万戸強の普及を見込んでいます。建て替え負担や廃材による環境破壊の軽減を図る目的があります。日本の家屋の平均寿命は欧米に比較して極めて短く、地球環境保全の観点からも問題がありました。
カナダの製材工場を視察したとき、木材を多く輸入しているカナダの西海岸の日本に近い部分の森林は、資源が枯渇し、伐採は次第に内陸になりつつあると聞きました。建築費は高くても、中古物件になると、価値が極端に低減してしまう日本の不動産流通システムにも問題があります。また、住まいを長持ちさせるために、構造体により多くの費用を配分し、日々メンテナンスを行う風潮に乏しい住み手の姿勢にも問題があります。
こうしたことからも私たちは、築100年の吉島家に学ぶことは多いと思います。高山には吉島家よりさらに30年以上古い民家も残っています。まさに200年住宅は過去にも存在しているのです。単に経済的な価値だけでなく、文化や暮らしの伝承の意義が私たちの思っている以上に重要な意味があることを、吉島家は教えてくれているようです。
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