
佐藤 章子(さとう あきこ):
ハウステージ有限会社代表。
CFPと一級建築士の資格を生かして住まいと暮らしのコンサルタントとして活躍中。
前回、「1間(いっけん)というモジュールは、日本人にとって大変意味のあるものだった」と述べましたが、最近では、「間」という単位さえ知らない方も増えたようです。
少し前まで一室は必ずあった畳の部屋も、今はほとんど見かけなくなり、新築マンションは全室洋間に変わりつつあります。それに伴い、住宅メーカーでの新入社員教育は、日常的に使われていた和室のパーツの名前を教えることから始まるそうです。
例えば、畳寄せ、長押(なげし)、廻り縁、鴨居、欄間など、天井の仕上げの種類が最も基本的なものです。床の間となると、さらに難しくなり、落とし掛け、床柱、床框(とこかまち)をはじめ、材質の種類や建具の種類、バリエーションも加わります。
しかし、今でも「1間の窓(=巾が1間の柱の間隔の中にきっちり納まる窓)」や、「1間半のサッシ」といった言葉は比較的よく使われるのではないでしょうか。実は、「間」という単位は、住まいや暮らしのさまざまなものの基準であり、非常に理にかなったものなのです。
●1間とは
1間は1.82mに換算されるのが一般的で、1間×1間が1坪という広さの単位です。ほんの少し前までは、○○㎡より、○○坪の家という表現の方がよく使われていました。また、1間は畳の長い方の寸法とほぼ同じですので、6畳の部屋は2間×1.5間で3坪となり、長屋の1世帯分の広さになります。
さらに尺という単位もあり、6尺=1間となります。最近は背の高い男性も少なくありませんが、1畳は大人一人が寝るスペース、半畳は座るスペースとも言われます。1間は、大人の男性の両腕を広げた長さ、手を上に上げれば楽に届く高さで、身体のサイズや動作の基本的寸法ともいえます。
実際に1間という長さは、6尺帯、6尺棒、6尺褌など、ものの長さを表すのにも頻繁に使われ、人間の身体の身にまとったり、活動したりする上で具合の良いサイズになっています。6尺ほどではありませんが、3尺帯、「3尺下がって師の影を踏まず」など、3尺も一つの尺度として登場しています。
そもそも最初に日本に伝わった物差しは、高麗尺(こまじゃく)だそうです。平城京は、この高麗尺よってつくられ、その後伝わった唐尺は、現在の尺とほぼ同じです。当時は10尺が1間で、1間は今よりだいぶ長かったようです。中世以降は日本の歴史でおなじみの太閤検地により、税金をたくさん徴収したり、功績のあった臣下に土地を分け与えたりするために、単位を小さくごまかしました。さらに徳川幕府でさらに1間は短くなり、6尺を1間として江戸の町が作られました。
●「間」にあわせて作られた暮らしや文化
日本人はこれらの単位を駆使して、住まいや暮らしを作り上げてきました。例えば、たんすのサイズはいろいろありますが、和だんすの場合は奥行1.5尺で巾は3尺または4.5尺です。この3尺というサイズは、引き出しを無理なく操作できる巾です。4.5尺のたんすは、小引き出しが横についていて、メインの引き出しはやはり3尺が多いです。着物は、これに合わせてたたむようにできています。
つまり、長さの単位が、住まいのモジュールとなり、それに合わせて家具のモジュールとなり、着物を包む畳紙(たとうがみ)もまたそれにあわせて作られているのです。4尺あれば畳紙が2つ並びます。逆に考えれば、着物をたたむのに、畳のどのくらいのスペースがあれば、畳紙が広げられるかが分かり、散らかっていればその部分だけ片付ければ足りるわけです。柱は1間または半間ごとにありますので、「この壁にはたんすが何棹並べられて・・・」と、家具のサイズを細かくはからなくても、レイアウトのイメージが可能だったのです。
しかし洋服の普及と共に、収納も変化せざるを得ず、洋服ダンスの奥行は約60cm必要ですので、婚礼セットなどは、そこだけ飛び出てしまって、まことに具合の悪いものでした。

日本人は、このモジュールの考え方が好きな民族だったのでしょうか。着物も1枚の平らな布から、少しも余すところなく、切り分けて作られています。昔は汚れると解いて、平らなパーツに戻してから、洗ってのりをつけて、板(張板)に貼り付けて乾燥させ(洗い張りという)、再び着物に縫い直したものです。布地の巾も決められていますので、板もそれに合わせてサイズが決められています。
江戸時代の徹底したリサイクル社会と合わせて、日本人は合理的に無駄なく、システマティックに日々の暮らしを営んでいたのですね。
戦後、暮らしが欧米化したことで、長さの単位から住まい、家具、衣服へとつながる美しい連関が、いたずらに乱雑になってしまったとしたら非常に残念です。新たに住まいをつくる時や、はじめて親から独立して自分の家具などを購入する際には、日本人が培ってきた合理的な文化や便利なモジュールを思い起こして、無駄なモノを持たないようにしたいものです。
このエントリーのトラックバックURL:
http://www.interblog.jp/bizmt/mt-tb.cgi/710