
佐藤 章子(さとう あきこ):
ハウステージ有限会社代表。
CFPと一級建築士の資格を生かして住まいと暮らしのコンサルタントとして活躍中。
日本の伝統的住まいの建具として、襖(ふすま)は最も代表的なものでしょう。現在でも、和室があれば押入には襖が入れられ、出入り口は戸襖(とぶすま)が一般的です。洋式の住まいとの調和を図るために、和室側には襖紙を、廊下やリビング側にはクロスを張るなど、裏表が使い分けられています。最近は和室そのものがなくなり、また、一つ一つの部屋に独立性を求める暮らしに変わり、襖は次第に見られなくなりつつあります。
●襖の機能
伝統的な日本の住まいは、襖によって部屋が作られていると言ってよいでしょう。神社仏閣や武家屋敷などを見学すると、四方が全て襖という部屋も見かけます。従って襖の機能は出入りだけでなく、部屋と部屋の間仕切りと言えるかもしれません。襖には、完全な壁と違って時として開け放したり、取り外したりして二つの部屋を一体化して利用できるという可変性があります。
また、床の畳や板、土壁、天井板、どれも自然の色合いで成り立っている日本家屋の中で、襖は装飾的要素やある種の宇宙観を表現する場でもありました。障子と違って光は通しませんし、閉めてしまえば通風機能もありません。従って、鴨居の上部を欄間(天井と鴨居の間にある開口部のこと)としてオープンにする場合もあります。そこに透かし彫りを施したものや、筬(おさ)欄間といって櫛(くし)状の桟(さん)をデザインしたものを取り付けたり、建具を入れたりする場合もあります。襖は確かにプライバシーの確保には適しませんが、一家族が住まう住居で、真にプライバシーを必要とする部屋は、そう多くはないはずです。
家族の気配を感じながらの生活は、なかなか良いものではないでしょうか。壁によって、部屋ごとの独立性や相互の遮音性を高め、「孤立した城」のような状態を作る方向性には、住まいがアパート化するようで何かしら違和感を覚えます。
●襖の作法
前述の通り、襖は音の遮断もできませんし、隙間から光も漏れてしまいます。まして欄間が開いていればなおさらです。しかし、そのような空間だったからこそ、日本にはさまざまな暮らしの作法があったのではないかと思います。家族に配慮しながらの生活は一見不自由に見えますが、現代の住まいにまつわる作法はどのくらいあるでしょうか。「ドアをノックする」、「スピーカーの音量を小さく」、「ドタバタ音をさせない」など、そのほとんどは部屋ごとの孤立化に伴うものばかりのようです。各部屋が個室化し、住まいの性能が向上するにつれて、何か大切な作法を忘れつつあるような気がします。
●襖の種類
襖には、いろいろなバリエーションがあります。伝統的な建具といっても、現在の洋風な暮らしに合わせて自在にアレンジされてきたのです。
【縁付き襖】
…最も一般的な襖で、周囲を茶色の塗り、枠などで囲んだ襖です。
【太鼓張り襖】
…縁付きのものは、かなりその縁が強調されますので、室内全体の調和を取りたい場合に、縁をなくして襖紙で包んでしまう張り方です。茶室などで使われますが、現代では洋室の収納や間仕切りに引き戸を使う場合に、戸襖を壁と同材のクロスなどで太鼓張りにする事があります。角もクロスのため耐久性にかけるので、実際は縁を白木などの目立たない材質で極端に薄く見せて作り、洋風の室内と違和感をなくするのが一般的です。
【特殊襖】
…襖の一部に障子やガラリを組み込んで、通風や採光に配慮した襖のことです。以前はよく見かける種類でした。破損しやすい下部を布で補強し、板張りにしたものもあります。
【戸襖】
…和室と和室、和室と押入の境には襖を入れますが、洋室や廊下と和室との境は戸襖となります。洋室側は同じクロスを張り、他のドアと同じ仕上げとにすることが多いです。基本的には襖というより、引き戸ですので襖よりは重くなり、使い勝手がいくらか悪くなります。最近は引き戸には戸車を利用して開閉を楽にするのが一般的です。
襖を取り外したり開け放したりして、二間続けて利用するのは、どのようなケースでしょうか。大抵の場合、多くの人数が集う時ではないでしょうか。昔は冠婚葬祭も自宅で行いましたが、現在は冠婚葬祭ばかりでなく、家族だけの祝い事もレストランなどで行っています。手間もかからず、忙しい現代人にはそれも致し方ない気がしますが、住まいでの暮らしがバリエーションに欠けていくのは、必ずしも良いことのようには思えません。住まいのあり方を考える上で、伝統的建具の意味を再確認したいものです。
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