
佐藤 章子(さとう あきこ):
ハウステージ有限会社代表。
CFPと一級建築士の資格を生かして住まいと暮らしのコンサルタントとして活躍中。
和室があまり見かけなくなると同時に、「障子の文化」も次第になじみが薄くなったようです。しかし、和紙を通して差し込んだやわらかい光は、室内の雰囲気をグンと良いものにしてくれます。そもそも障子は、日本家屋の中でどのような役割を持ってきたのでしょうか。前回の襖(ふすま)に続いて、現代の住まいに生かせる障子の役割とは何なのか、もう少し踏み込んで考えてみたいと思います。
●障子の機能
障子というと、木枠に和紙を張った明かり障子のことを思い浮かべるかと思いますが、本来、障子とは建具そのものを意味していました。障壁、保障、故障という言葉からも分かるように、障子の「障」は、「遮る」「見えないようにする」「防ぐ」といった意味で、建具そのものを意味していました。現在も建築用語では、枠と障子、サッシの障子といったときの「障子」は、建具そのものを表しています。
障子の特徴として、光を取り入れつつ視線や風を遮る点があげられます。取り外しできるのは、前回の襖と同様ですが、本来障子の役割は、建具を通して外部を感じさせることだったそうです。ガラスのない時代には、外部の開口部を板戸や襖でふせいだり、開口部をそのまま几帳(きちょう)等の簡易的なものでしのぐしかありません。板戸も襖も光を通さないので、外部と内部は遮断されてしまいます。しかし障子であれば、外部の音や光を感じることができるだけでなく、木々の葉陰を写すこともできます。
古くから日本人は、外部空間をたくみに暮らしに取り入れてきました。季節の変化にも優れた感受性を持っています。柔らかな光を内部空間にもたらす障子は、日本人の感性にぴったりなものだったのでしょう。そのために外部とのつながりに関して、障子はさまざまなバリエーションが考え出されました。たとえば、京都の大徳寺弧蓬庵(だいとくじこほうあん)の障子は、下部がオープンになっていて、庭の見せたい風景だけを切り取る効果を持たせています。上部が障子であれば、明かりも入り、開け放たれて見える部分とのつながりを、気配として想像することができるのです。
※大徳寺弧蓬庵
http://www.ifnet.or.jp/~chisao/edosho.htm
●障子のいろいろ
首都圏に居住する今の若い方にとって、障子といえば桟(さん)の1マスがおよそ25cm×15cm程度の水腰障子しかイメージできないかもしれません。しかし、障子には全面和紙を張った明かり障子のほかに、下半分を板張りにしたもの、下部30cm程度を補強のために板にしたもの、中央にガラスを組込んだもの、下半分をガラスにした雪見障子、下部を上げ下げ可能にした猫間障子などがあります。桟の組み方も縦のラインを強調したもの、横長のマスにしたもの、横軸だけのものなど、桟(組子)の入れ方で様々なデザインが可能です。しかし、むやみやたらにデザインしているわけではなく、障子紙のサイズに合わせて考えるのが基本です。現在は厚手のもので巾が90cm程度の障子紙もありますが、昔は紙に無駄が出ないようにと考えられていたのです。
また組子の形は、単に縦や横を強調したり、間隔の妙をデザインしたりするばかりでなく、北陸地方などは寄木細工のごとく、ひし形、麻の葉と呼ばれる星形、雪の結晶のようなデザインなどがアレンジされ、その美しさには目を奪われます。障子は日本の伝統家屋の中で重要なデザイン要素となっていたのです。
※北陸地方の組子障子
http://www.tanihata.co.jp/monyou/sayagata.htm
http://www.bea.hi-ho.ne.jp/ino-inomata/kumiko.htm
●現代の暮らしと障子
新築の場合、戸建て住宅もマンションも、客用の寝室や予備室などを組み込むゆとりがあるときを除いて、まず和室を設けることはなくなりました。本来、和室は多目的に利用できるはずですが、いすとベッドの生活が定着した現在では、和室が最初に選択されることが少なくなったのです。しかし、和紙そのものはスクリーンやロールブラインド、折りたたみ式のブラインドなどに形を変え、現在の住まいにも使われています。また、障子そのものは、決してフローリングの床にマッチしないわけではありません。今までも廊下や広縁、板の間にも障子は使われてきたのです。
日本の住宅に特有の大きな開口部には、決してカーテンが適するとは思えません。レースと厚手のドレープカーテンの組み合わせが一般的だと思いますが、昼間ドレープは邪魔になりますので、端に束ねられています。サッシの巾が広いので、カーテンもぼってりした固まりになり、ホコリもつきやすく、コンパクトとはいえません。夜間、室内に照明がつくと、レースのカーテンでは目隠しになりませんので、ドレープのカーテンを引くことになります。この作業のためのスペースは必要ですが、よほど広い部屋でない限り、カーテン近くに家具が配置されているのが実情だと思います。
また、戸建て住宅の場合は、引き違いサッシにはシャッターか雨戸をつけることが少なくありません。そのために実際は、ドレープのカーテンは目隠しとしてはさほど意味がありません。室内からシャッターや雨戸の裏側が見えるのを隠しているだけのように感じられます。高温多湿の気候や冬の締め切った室内では、生地が伸びて床に擦ってしまいます。ドレープが美しいカーテンの生地ほど、伸びやすいという欠点もあります。従って、掃き出しサッシにカーテンをつける場合、正式には1年経つと、すその調整を行います。再度縫い直す必要があるのです。
日本の幅広の開口部には障子の方が適しているのではと思います。風通しも少しだけ障子を開ければ、目隠しと換気が確保できます。猫間障子などを活用すれば、見たいところだけ開けることもできます。全て壁内に引き込むように工夫すれば、スッキリした全面ガラスにすることもできます。
これだけ生活が欧米化しても、靴を脱ぐ暮らしと、掃き出しサッシ至上主義は変わっていないようです。日本の住まいの開口部が、ヨーロッパの石造りの住まいの伝統のように、小さな開口部に変化していくとは、考えにくいと思います。障子は日本の住まいのなかで、もっと再評価されてもいい建具なのではないでしょうか。
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