
佐藤 章子(さとう あきこ):
ハウステージ有限会社代表。
CFPと一級建築士の資格を生かして住まいと暮らしのコンサルタントとして活躍中。
町屋とは、つまりは町中の庶民の住まいのことを指します。庶民の住まいそれぞれに独自のスタイルがあり、それらが連なって美しい街並みを形成しているのです。
また、町家のスタイルはその地方独自の風土や社会、風習、歴史に基づいたものになっているはずです。だからこそ長く町家のスタイルが残り、人々はそこで代々暮らし続けてきたのでしょう。今回は、そんな町家のあり方から、長く暮らし続けるためのヒントを探っていきたいと思います。
●「町家」~そのイメージするもの
みなさんも、「町家」に対して何らかのイメージを持っているのではないでしょうか。
それは、自分の故郷の町家のイメージであったり、旅先の町家保存地区で見たものであったりとそれぞれ違うものでしょうが、それでも「町家」と言われて思い浮かべる共通のイメージがありそうです。
では、一般に言われる「町家」の特徴は、いったいどんなものなのでしょうか。いくつか挙げていきたいと思います。
様式美…
その地方に独特の格子模様や建物の形は、生活上必要とされた意匠が長い間に洗練されて美しい様式美となり、見る人の心に響くものになります。ただ他と異なるものを目指していたら、様式美は生まれなかったと思います。
街並み形成…
町家は単独でも味わい深いものがありますが、やはり同じ様式の町家が連なっている構成の美がイメージとしてあると思います。同じ高さに揃った庇や屋根のラインは、私たちには「美しいもの」として映りますが、作られた当初は美的センスを考えてのことばかりでなく、その地域に暮らすための約束事・知恵なども反映しているようです。
地域社会の息吹…
町家の様式美や街並みの美しさが私たちの心に響くのは、そこから生活の営みやその土地の人々の付き合いのあり様が感じられるからではないでしょうか。町家の多くは何かしらの商売を営む、店舗併用の住宅でしたし、今も現役で商売しているところもあります。近所の人々のため、また商売上の用のため、さりげなく配された床机やのれん、格子、看板などその佇まい一つ一つに、長く暮らしてきた息吹が感じられるのです。
●京都の町家に見る暮らしと空間
次に代表的な京都の町家を例にして、町家の暮らしとその知恵について考えてみましょう。
うなぎの寝床と通り庭…
江戸時代は、通りに面した間口で課税額が決められていました。今でも土地の評価額は間口による補正がなされて、広い間口は評価が高くなります。従って間口を狭く奥行が長い敷地ができたといえますが、と同時に地域社会という面から考えても、快く便利な環境であると思います。間口の広い商店ばかりでは、数店回って買い物するのに時間がかかり、延々と歩かなくてはなりません。今でも昔からある商店街は、ちょっと歩けば必要なものは全て揃ったりします。
つまり、間口が狭いということは、ある意味で生活に心地良い環境なのです。通り庭は、そのような敷地の形状に合わせて、建物の入口から奥へとつづく長い土間のことで、炊事場や井戸などが設置されています。途中のトップライトや坪庭などで、奥まで光を届けさせる役割もあります。
奥庭…
通り庭の奥にあるのが奥庭です。通りと反対側にあるので、裏庭的なものです。蔵などがさらに奥にある場合もあります。現代の住まいは、間取りや照明の工夫でどこも室内はほぼ同じ明るさですが、町家の内部は、「入口→通り庭→天窓(中庭・坪庭)→通り庭→奥庭」と光の変化があり、光と暗がりが独自の空間の性格を作り出しています。壁ではなく光で区切られた空間は、結構心地良いものです。
虫籠窓(むしこまど)…
江戸時代は、武士を見下ろすことになるという理由で、本格的な2階建の商家が許可されていませんでした。従って2階の天井は極端に低く、1階の屋根や庇と2階の屋根の間のわずかな高さしかない外壁に、通風と採光のための小窓が取り付けられました。この窓は格子に漆喰が塗り込められたものが多く、虫籠のように見えたことからこの名がつきました。同じ理由から、2階を1階より奥に引込めて建てる場合も多く見られます。通りの圧迫感を緩和したりする意図もあったようです。
※「格子」「駒寄せ」「うだつ」「犬矢来」については、以前のコラム『住まいの構造体-4』 屋根・外壁に町家の写真と解説を紹介してありますので、ご参照ください。
町家で形作られた街並みは、個々の雑多なデザインが混在する現代の住宅地とはかなり異なります。その土地に代々長く住み続ける中で、主張するのではなく、周囲との調和を積み重ねた結果が独自の様式美や美しい街並みを形成し、その中で培われた地域社会がまた「長く暮らす」連鎖となっていくのでしょう。
長く住み続けたくなるような地域社会を作るのも、美しい街並みの佇まいを作るのも、一人ひとりの住み手による努力の積み重ねです。現代は統一した建物の様式とは行きませんが、植栽や外構の工夫で周囲の環境との調和は充分に可能です。ほんの少し通りを行く人へのお裾分けをする気持ち…季節の花や豊かに葉を茂らせた樹木、庭の外灯やユーモアのある郵便受けやネームプレート…などが、豊かな地域社会を形成していく第一歩ではないでしょうか。
住まいの作りも防犯上など閉鎖的になりがちですが、それだけに周囲に対する心配りの輪が大切だと思います。
このエントリーのトラックバックURL:
http://www.interblog.jp/bizmt/mt-tb.cgi/761